Iさんの英語屋をしていた当時の話で最も忘れ得ぬ人といえば、秘書のTさんである。
私が異動してきた当時、Kさんはもう何年もIさんの秘書を務める大ベテランだった。
いわばキャリアウーマンのはしりで、その卓越した人格・教養・判断力などどれひとつとっても、そこらの凡庸な男性管理職など足下にも及ばないくらいだ。
私がKさんに初めて会ったのは、Iさんの英語屋にならないかという打診を受けて面接に行ったときだったが、「大企業のトップの秘書とはこういう人か」という強い印象を受けたものである。
落ち着き払った丁重な言葉遣いと穏やかな表情の中にも、その態度には凛とした威厳のようなものが漂っていた。
Iさんには、ほかにもう一人若い女性秘書がついていたが、Kさんは会社の内外からかかってくるおびただしい電話や面会の応対で毎日忙殺されていた。
Iさんのスケジユール調整はもとより、いろいろな相談事でKさんを訪ねてくる人も少なくない。
当時のKさんは、本当に気の毒なくらい忙しそうに見えた。
Kさんは仕事の達人だった。
「これは英語の仕事だから、Uちゃんの担当ね」などと言ってば仕事を送ってくる。
もちろん、仕事を振られるのは私ばかりではない。
「これはあそこ、これはそこ」などと言っては、専門の各部署に上手に振ってしまう。
人間関係の把握はピカイチだと思った。
誰がキーパーソンなのか、Iさんとどういう関係にあるのかといったポイントは、すべてKさんの頭の中に収まっていた。
「カバン持ち」の仕事で私がIさんについていくときにはいつも、特に大事な点だけインプットしてもらえた。
秘書のプロの技術とは、まさにこういうものだ。
巷には秘書の養成講座とか検定試験のようなものもあるようだが、それだけではうまく計れない、何か特別な能力であるようにさえ思われる。
もちろん、Kさんのような一流の秘書が生まれるのも、大企業という舞台での豊富な経験の蓄積があって、初めて可能になるのかもしれない。
だが、仕事をする上で欠かせない基本的な能力や資質が備わっていなければ、そう簡単にトップの秘書など務まるものではない。
Iさんでも怒られる。
レターなどを書く際の英語の表現に関して、Kさんは、名誉会長にふさわしい「格調の高い」文章を求める以外は、それほど要求の多い上司ではなかった。
表現については、過去の手紙やレターの文例集などを参照することもできたので、異動早々は不慣れだった私でも、時間さえかければ何とかなった。
問題は手紙の内容である。
形式的なもので良ければまだ何とかなるが、Iさんの「心のこもった」ものにするためには、相当のやりとりがあった。
特に困ったのは弔電を打つときだった。
それまで、個人的な電報を出すときは電話帳の例文などを見て「弔電の何番でお願いしますね」などと言って済ませていた私は、電報など短ければ短いほど良いものだと思っていた。
実際、相手との関係などによっては、あまりごちゃごちゃ書かないほうが良いというのもまたひとつの理屈である。
しかし、政治家や企業のトップクラスになると、弔電ひとつとっても、普通の人々と同じではいけないことがわかった。
社会の重鎮であるからこそ、その人でなければ書けないような、心のこもったメッセージを送らなければならないのである。
大企業のトップとしてのIさんの威厳と格式を保つことについて、Kさんは徹底的と言えるほど固執した。
役員室の若手秘書などに、Iさんの立場を損なうような言動があった場合、Kさんの態度はとても厳しかったように覚えている。
どちらかと言えばやんちゃなところがあるIさんは、外出先で「やっぱりこうしたい」と思いつくと、Kさんに言わずに自分で電話をかけて予定をキャンセルしてしまうことがあった。
そんなとき、それが大事な会議だったりすると、たとえ相手がIさんといえども、Kさんは烈火のごとく怒った。
随行していた私にも「あなたが付いていながら、なんで会長さんにそんなことをさせるのよ!」などと、とばっちりがとんできたこともあった。
しかし、Iさん「個人」としては他にやりたいことがあっても、ソニーの名誉会長などという「公人」の立場では、勝手気ままな行為は許されない。
責任ある秘書として、Iさんの公人としての立場や威厳を維持するためには、Kさんがとったような厳しい態度もまた必要なのだということを私は学んだ。
その一方でKさんは、高齢のIさんの顔色や健康状態をつぶさに観察しながら、けっして無理をさせることはなかった。
数多くの役職を兼ねているIさんのスケジュールはびっしりだったので、その調整にはKさんも苦労が多かったようである。
そのようなKさんに、Iさんも全幅の信頼を寄せていたようだった。
Iさんに対してだけでなく、Kさんは人から相談を受けると、まるで母親のように良い相談相手になってくれる。
だから、Kさんを訪ねてくる人は引きも切らない。
優れた秘書は、単なる「お茶くみ」でないことはもちろん、ただ事務的に行動する取り次ぎ係でもない。
その存在は、いわば企業トップのために人間関係を円滑にして、組織を動かすための潤滑油のようなものである。
潤滑油が良くなければ、機械は動かなくなる。
そういう意味でも、Iさんの周辺には最上質の潤滑油が巡らされていた。
英語屋の卒業論文お出迎えのイロハ。
Iさんのところには、内外から実に様々な人々が訪れた。
昔からの友人や知人が来日する機会に会いたいと言ってくるのはもとより、各国の王族・政治家や駐日大使が国づくりのアドバイスを求めたり、またソニー草創期の歴史についてジャーナリストがインタビューをしに来たこともよくあった。
このような海外からの面会依頼の電話やフアックスは、すべて私のところに回ってきた。
私は先方の来訪希望日時や目的などを聞き出し、それを簡単な報告書にまとめて秘書のKさんに報告した。
それを受けたKさんは、Iさんの意向を確認した上で、会おうということになったら面会の段取りを整えた。
その際、必ずチェックしておかなければならない次のような項目がいくつかあった。
そこで私は、これらの項目を1枚にまとめた「面会チェックリスト」のフォームを作り、それに必要事項を記入したものをKさんに渡すことにした。
△面会チェックリストの内容▽面会場所までの送迎(こちらから車を出す必要があるか、どこで出迎えるか)面会日時と場所の設定(本社の応接室でいいか、それとも別の場所にするか)おみやげ等の手配(必要か不要か、必要だとしたら何を用意しておくか)ソニー側同席者の手配(実務担当者にも同席してもらう必要があるか)それぞれの項目について、その当時の経験から会得したコッのようなものをここで振り返ってみよう。
面会場所までの送迎お客様が政府の要人や大企業の重役なら、それぞれの国の在日大使館やその会社の東京支社といった出先の機関が車を手配するので必要はない。
しかしそうでない場合は、先方の希望もよく聞いた上で、宿泊先のホテルまで送り迎えの車(役員専用車またはハイヤー)を手配する。
お客様とはだいたいホテルのロビーで待ち合わせるのだが、そこから車に同乗して会社まで案内するのは私の役目だった。
究極の英会話は評判いいんです!秋葉原でしか手に入らない英会話です。
結局英会話を体験しましょう。納得の英会話が手に入ります。
英会話を提供します。結局英会話が便利です。



